このところ被災者や戦死者に対する、あるべき慰霊のかたちを考察するための資料となりそうな本を続けて読んでいる。
その手始めに、1月ごろに読んだのがこの本である。吉川弘文館 2003年4月20日第1刷。
Ⅰ章の、戦死者の慰霊が各家々で行なわれていた事実は、フィールドワークに基づいて明らかにしている点で面白く読んだが、当然といえば当然のことである。
「国家が不自然な多重祭祀を行なうのは死者への冒涜のきわみ」という結論はあまりにも飛躍が過ぎる。戦没者遺族にも「家単位での慰霊は当然として、国家としての慰霊を」と求める声は決して少なくないはずである。
Ⅱ章は柳田国男民俗学の批判的検討が主である。民俗学の知識は殆どないので、良くわからない部分もあったが、興味深く読んだ。
Ⅲ章「天狗と戦争」は、戦時中、天狗が祭られている神社への弾丸よけ祈願が爆発的に流行したことを記している。
「民衆の間では『七生報国』よりも千人針や天狗参りの弾丸よけ祈願がおこなわれていた」としている点に著者の思想傾向が顕われているが、従軍が「死ぬために」ではなく「死をも恐れず」のものである以上、七生報国と弾丸よけ祈願は特に矛盾するものではないと私は思う。
全体として興味深く読んだが、賛同はできない。
冒頭からアジア太平洋戦争という(私から見ると)不自然な用語を使っていることで、著者の思想的傾向が見えてしまった。